決算書の数字だけでは経営戦略に役立たない

決算書の数字を前年と比較し、売上や経費の増減を分析することは一般的ですが、

それだけでは十分な経営判断ができない場合があります。

特に複数の物件を所有している不動産オーナーの場合、

決算書にはすべての物件の合計が記載されるため、個々の物件ごとの状況が見えにくくなります。

そのため、経営改善を進めるには、各物件ごとの損益をしっかりと把握することが不可欠です。

全体として利益が出ていたとしても、個別に見ると赤字の物件があるかもしれません。

また、経費が過剰になっている物件があれば、その改善策を講じる必要があります。

さらに、利益が出ている場合でも、投資総額(所有する土地と建物の建築費を含む)に対して

適正な収益を確保できているかどうかを分析しなければなりません。


建設会社の提示する「利回り」の落とし穴

建設会社の営業マンは、「この物件は利回りが良いですよ」とアピールしますが、

ここで注意すべきポイントがあります。

彼らが提示する利回りは、

家賃収入 ÷ 建築費 で算出されていることがほとんどです。

しかし、これは土地の価値を考慮していないため、本当の投資効率を示しているとは限りません。

例えば、立地の良い場所にある物件は、家賃収入が高くなるため、表面上の利回りは良く見えます。

しかし、実際には土地の時価が高いため、総資産に対する利回りとしてはそれほど良くない可能性があります。

不動産投資の本当のパフォーマンスを知るためには、

家賃収入 ÷(建築費+土地の時価) で計算した利回りを確認することが重要です。

この視点は、将来的に物件を売却しなければならない場合にも重要になります。

市場では、建築費ベースの利回りではなく、土地+建物の総資産に対する利回り を基に評価されるため、

売却時に思ったほどの価格がつかない可能性があります。


各物件ごとに分析することで見えてくる課題

物件ごとの分析を行うことで、次のような重要な論点が見えてきます。

1. 将来的な売却価格への影響

家賃収入の減少は、その物件の価値を下げる要因になります。

安易な値引きをせず、適切な投資を行いながら家賃収入を維持することが、資産価値の確保につながります。

2. 事業承継の計画

個人所有の不動産は、相続によって承継されるケースがほとんどです。

しかし、どの物件を誰に引き継ぐかによって、相続の負担や運営のしやすさが変わってきます。

後継者がスムーズに運営できるよう、事前に対策を講じることが重要です。

3. 修繕積立の計画

将来の修繕費を考慮し、各物件ごとに積立を行うことが望ましいです。

具体的には、普通預金口座を分ける、定期預金を活用する、生前贈与を検討する など、さまざまな方法があります。

4. 本来目指すべき利回りの算出

各物件の「良い点・悪い点」を明確にし、どのように改善すべきかを検討できます。

全体の損益を見ているだけではわからない部分が、個別分析を行うことで浮き彫りになります。

 

税理士が担うべき役割の変化

一般的な税理士事務所では、各物件ごとの損益を算出していないことが多いです。

また、仮に算出していたとしても、それをどのように経営戦略に活かすかという視点が欠けている場合があります。

税理士は「会計処理や税務の専門家」ではありますが、

「不動産経営の戦略的アドバイザー」ではないことが多いためです。

しかし、不動産オーナーにとっては、

今後の資産形成や事業承継を見据えた「戦略的な財務管理」が不可欠になってきます。

そのため、税理士も単なる会計業務にとどまらず、次のような視点を持つべきでしょう。

• 過去の実績を分析し、将来の経営シミュレーションを行う
• 現地視察を通じて、数字だけでは見えない課題を把握する
• オーナーと対話しながら、経営改善策を提案する


確定申告の合理化と、これからの不動産オーナー支援

現在は確定申告のシーズンですが、将来的にはこの業務も合理化されていくと考えられます。

しかし、税務申告だけでは不動産オーナーの本当の経営課題を解決することはできません。

これからの時代、不動産オーナーが持続的に成長していくためには、

単なる会計処理を超えた財務戦略の支援が求められます。

私たち税理士も、会計や税務チェックに費やす時間を減らし、

「オーナーと寄り添いながら、経営改善をサポートする」 という役割を強化していくべきだと考えています。

今後は、より戦略的な財務管理を支援し、

不動産オーナーの成功を後押ししていきたいと思います。

 令和7年2月26日 税理士 髙島聖也

 

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