税理士の高島です。
東京地裁で被相続人が相続直前に借入金で取得した不動産の相続税評価を
めぐる裁判について、納税者側が敗訴するという判決が下りました!
今回はこの判例についての概要とどこがまずかったのかについて
解説したいと思います。
『事案概要』
90歳の被相続人は会社の事業承継や遺産分割や相続税の負担を懸念して、
○○銀行に対し、○○診断を申し込んだ。
結果、借り入れにより不動産を取得した場合の相続税試算および
相続税の圧縮効果を受けた。
○○銀行の提案を受け相続前に2つの
不動産(A不動産8億3,000万円、B不動産5億5,000万円)
を購入しました。
この二つの不動産については相続税評価額が(A不動産2億円、B不動産1億3,000万円)ということで
約4倍のかいりがあり、納税者は評価通達をもとに相続税申告をしました。
これらの不動産は銀行からの借入金で購入していたことから、
相続税は0だという申告だったようです。
これに対し、税務署は評価通達6項(評価通達の定めにより評価することは著しく不適当な場合には
国税庁の指示で評価する定め)に基づき、
鑑定評価額(A不動産7億5,000万円、B不動産5億2,000万円)
で評価するのが適当であると
更正処分(申告のなり直しの指導)を行いました。
これについて、納税者と税務署と意見が一致せず、
国税不服審判所の裁決を経て、東京地裁に提訴されたのです。
そして東京地方裁判所は令和元年8月27日に、
納税者の主張を棄却するという判決が出たのです。
『解説』
皆様もタワーマンションについて、否認事例が出たことはご承知の通りだと思いますが、
あれはタワーマンションがダメというわけではなく、実は一般の賃貸不動産についても
適用される「評価通達6項」により否認されたのです。
平成27年の相続税課税強化が行われました。
銀行からの借り入れにより、相続直前に賃貸用不動産を
取得して相続税の負担を
なくすスキームが多く行われているようです。
やはりみんな相続税はなるだけ負担したくないと
考えています。
どうにか相続税が安くなる方法はないかと考えて
スキームを専門家(銀行と税理士)を提案しているのでしょう。
しかし、税務署もそのようなことをしてくる人に対して
対策を日々研究しています。
「時価の相続税評価が乖離している場合には、すべて6項が適用されて
税務署のなりたい放題ではないか」
と思われる方もいるかと思います。
評価通達6項の適用基準は以下の通りとなっています。
①評価通達に定められた評価方法を形式的に適用することの合理性が欠如していること
→ 90歳の方が不動産を購入することは理にかなっているのか?
②評価通達に定められた評価方法のほかに、他の合理的な評価方法が存在すること。
→ 不動産鑑定評価(収益還元法)
③評価通達に定められた評価方法による評価額と他の合理的な評価方法による
評価額に著しい乖離が存在すること。
→ (約4倍のかいり)
④上記③の著しい乖離が生じたことにつき納税者側の行為が介在していること。
→ 銀行の提案を受けて不動産を購入
今回の事案は、相続税節税が目的であり、不動産を商品的なものとして取り扱い、
相続税の租税回避が目立った事案だと思います。
『その不動産を購入する目的は?」となると
『相続税節税のため』となるでしょう。
【対策】
私も不動産オーナー様から新規物件の購入のご相談をいただくときは
まずご自身の所有土地についての活用や組み換えをお話しするようにしています。
それは自分の土地の活用は合理的(理にかなっている)だからです。
価格が乖離したとしても6項の適用はありません。
タワーマンションの購入の場合も自分が住む場合には
6項の適用がないのです。
最近は「相続対策なら当社へ」と営業している会社が多くあります。
もしするのであれば「このようなリスクがあります。」ということは
ぜひ説明していただきたいところです。
令和元年9月24日 税理士 高島聖也